PRESS LOG #2「紙って、おもしろいですよ」
信洋舎製紙所・西野正洋さん

圧倒的な美しさと品格を誇る、あさだ屋の「越前和紙名刺」。
そのほとんどの紙を漉いているのが、信洋舎製紙所 五代目の西野正洋さんです。

今回は福井県越前市にある工房で、職人の手仕事と、あさだ屋で取り扱っている和紙のことをお聞きしました。

福井県で育まれる「越前和紙」

福井県越前市でつくられ、1,500年以上の歴史を持つ「越前和紙」。
岐阜県の美濃和紙、高知県の土佐和紙とともに日本三大和紙に数えられ、紙本来の美しい生成色(きなりいろ)と、高い品質、名刺・奉書紙・襖紙・工芸紙・写真用紙といった種類の豊富さが魅力です。

西野さんが和紙を漉く様子。名刺サイズの場合、一度に50枚を漉くことができます。

和紙漉き」とは、植物の繊維や「ねり」と呼ばれる粘度の強い液体などを水に溶かし、木枠と金網でできた「桁(けた)」ですくい上げて形を生成する工程のことを指します。

水分がたっぷりと含まれた漉きたての紙は湿紙(しとがみ)と呼ばれ、透明感がありなめらか。信洋舎製紙所では、これを木枠に貼って、専用のスペースで乾燥させています。

「こうやって紙をずらっと並べて、蒸気ボイラーで12~13時間ほど乾かしている。冬場だと16時間くらい。
二部屋合わせて、最大16,000枚くらいの名刺が入るかな。なんだかおもしろいよね、アート空間みたいで」

乾かしたあとは、そのまま出荷されることもあれば、ローラーを用いて紙の肌(表面)をなめらかにしたり、布を当てて模様を付けたりすることも。西野さんはこうした作業を、ほとんどすべてひとりで行っています。

継いで直面する「職人」への葛藤

信洋舎製紙所の創業は1888年(明治21年)
1886年(明治19年)に建設された木造の建物は、文化庁の登録有形文化財にも指定されています。
ひとくちに「和紙職人」といっても、人や場所によって専門とする和紙はさまざま。信洋舎製紙所では、手漉きの工程で自然にできる、毛羽立ったような縁(ふち)が特徴の「耳付き和紙」を取り扱っています。

信洋舎製紙所の前には、文化庁からのプレートが。

大学卒業後すぐに信洋舎製紙所を継ぎ、五代目として和紙職人の道に進むことになった西野さん。
しかし、当時を振り返って「あれは『職人』じゃなかった」と話します。ご両親が和紙漉きを行っており、ものづくりの環境が身近にあったからこそ、長い間「職人」の在り方に疑問を持ち続けていました

「親父の時代は、頑張っていたけど、『下請け』だった。
当時は『漉けば売れる』時代やったで、作る理由や将来の目標がなくても漉くことができた。でも、それは職人の仕事ではないんだよね。だから『下請けの仕事を継ぐのか』という葛藤があって、しばらくは割り切ってやっていたけれど、10年ぐらい経験を積んでから『やっぱりちょっと違うんじゃねえか』って考えるようになった」

30代になって見つけた「仕事への楽しさ」

西野さんが仕事の楽しさに気づき始めたのは、紙漉きの仕事を継いで15年以上が経過した30代の頃。
仕事量が減少したことがきっかけで、和紙の開発に取り掛かるようになります。

西野さんが生みだした「キラ刷り和紙」

「『何かしなきゃ』と思って、まず初めにやったのは、カレー粉入りの和紙。
カレー粉を練りこんで漉いてみたら、最初はカレーの匂いだったけど、だんだんと腐った匂いがしてきたから『これはあかんわ!』って(笑)。でも、その紙は失敗したけど、あとはぜんぶ形になっている」

のちに西野さんは、インクジェット印刷に適しており、写真家に人気の「フォト和紙」や、和紙の表面に繊細なキラ(雲母)加工で模様を施した「キラ刷り名刺」など、現代的な要素を取り入れた新しい和紙を多数生み出します。

「自分で考えて和紙を生み出すことが、だんだん楽しくなってきて。上手くいかない苦しさも経験しながら、夢中になって試行錯誤しているあの瞬間が一番『職人』らしいんじゃないかと思えるようになったね」

こうした挑戦が「職人」としてのキャリアを深めるきっかけとなり、やりがいにもつながりました。

職人技の結晶。人気の「藍和紙・黒和紙」

西野さんが漉いている和紙の一種に、あさだ屋のオリジナル商品「藍和紙」と「黒和紙」があります。
あさだ屋の和紙名刺のなかでもツートップの人気を誇る紙。士業や高級飲食店、建築関係やデザイナーなど、実に幅広い職種から選ばれていますが、実は濃色の和紙名刺が作れるところは、全国でもほとんどありません

珍しい理由は、その制作背景にあります。

色の付いた和紙は、紙を漉く前の原料の段階から、紙に他の白い和紙の繊維が付着しないような素材選びが欠かせません。また、白い和紙を漉くときにも、藍や黒の顔料が混ざらないよう漉舟(水と原料が入ったおおきな水槽)を丁寧に洗浄する必要があるなど、紙を漉く前後の工程からものすごく手間がかかるのです。

さらに、通常の白い和紙との違いは、漉くときにも表れます。
「白い和紙だと、流し漉きの場合には簀桁に紗(しゃ)っていう薄くて黒い布を張って使うから、横から見たらある程度厚みを確認できる。けど、藍や黒和紙になるとわからんね。結局は今までの勘を頼りにやっているかな」

美しい箔押しのためには、圧の偏りを最小限に抑えることが重要です。
紙に厚みのばらつきがあると、厚みのある部分が盛り上がり、想定よりも強い力が入って輪郭が太ってしまったり、薄い部分には箔が付かず掠れが生じてしまったりと、問題が起こりやすくなってしまいます。

和紙漉きの工程上、縁(ふち)の部分が分厚くなる特性があります。

他の和紙と比べて、厚みの確認が難しい藍和紙と黒和紙。
均等な厚みになるように、西野さんは和紙漉きの際にこんな工夫もされているそうです。

紙を2回に分けて漉いてる。最初、1回で漉いたら『紙の厚みにムラがあって箔押ししにくい』って(あさだ屋の箔押し職人から)聞いて。いろいろ試してみたら、1回よりも2回漉いたほうが、均一な厚みになりやすかった。回数が増える分もちろん時間はかかるけど、箔が付きやすくなるために必要なんかなって思ってる」

実際にあさだ屋の箔押し職人は、漉く回数の違いによる紙の厚みの変化を実感しているそう。こうした和紙職人と箔押し職人それぞれの手仕事によって、和紙名刺は出来上がっているのです。

直々に受け継がれる「人間国宝和紙」

種類によって、原料も漉き方もおおきく変化する和紙。

なかでも難易度が高いのが、あさだ屋でも取り扱っている「人間国宝 岩野市兵衛純楮和紙」です。人間国宝の九代目岩野市兵衛さんによる、楮(こうぞ)を100%用いて伝統的な方法で制作された生漉和紙(きずきわし)で、絹のように滑らかな質感と、抜群の保存性・耐久性が特徴です。

西野さんは、名刺サイズの純楮和紙を、市兵衛さんから直接依頼されて漉いています。
他の原料よりも繊維が長い特徴がある楮。漉き桁の枠に残りづらく、いびつな形になりやすいそう。そこで、西野さんは3回に分けて少しずつ漉くことで、紙に厚みが出るようこだわっています。

「市兵衛さんの紙を漉くようになって、15、6年は経ってるんじゃないかな。
あるとき市兵衛さんが原料を持ってきて、『名刺漉いとってくれん?』って声を掛けられたことがきっかけで、市兵衛さんの和紙用の漉き方を習得していった。
あの人は名刺を俺にしか振らん。表面の平滑っちゅうんが、他の人は難しいと思うよ」

紙漉きとともにある人生

紙と木であふれている信洋舎製紙所。現実離れした、幻想的な趣があります。

キラ刷り和紙や藍和紙、黒和紙や純楮和紙など、多岐に渡る和紙名刺を漉いている西野さん。
五代目として信洋舎製紙所を継いでから、30年以上の月日が経ちました。

「自分で作ってるものって、自信を持ってアピールできない。違う工房の紙は、『すげえな』って思えるんやけど。
何十年も毎日やっているから、あまりにも当たり前のことになっているな。極端に言うと、歯を磨いていることをわざわざ自信を持って言おうとは思わないでしょ」

かつてはなかなか技術が上達せず、モチベーションの維持が難しかった時期もあったそう。しかし年月を重ねるごとに、「この仕事が良いと心から思えるようになった」といいます。

紙って、おもしろいですよ。そう思えるようになったのは、試行錯誤を重ねるようになってからだけど。
ペーパーレス化が進んで、紙の総消費量は年々下がっているけれど、思いや感情を込めた紙っていうのは絶対になくならない。そういうものを作り続けられるのは、いい仕事やなって思いますね」

紙を漉く工程を見せていただいたときのこと。漉きあがったばかりの紙をじっと見つめ、「このときがいちばん綺麗やな」とつぶやかれた西野さんの姿が強く印象に残っています。自社製品のアピールが難しいと話す西野さんですが、その横顔には、長年の仕事に裏打ちされた矜持が滲んでいるように見えました。

和紙のご注文は、あさだ屋にお問い合わせください

箔押し印刷「あさだ屋」では、信洋舎製紙所の越前和紙を使用した名刺のご注文を承っております。
名刺以外のご相談も、どうぞお気軽にあさだ屋までお問い合わせください。

※恐れ入りますが、信洋舎製紙所の西野さんへの直接のご連絡はご遠慮いただきますようお願いします。

箔押し印刷あさだ屋
〒910-0033 福井県福井市三郎丸4丁目204
電話番号:0776-89-1650
メールアドレス:contact@haku-asadaya.com

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